子どもの頃、相棒と怪獣消しゴムでよく遊んだ。1980年代のこと。
二人でとんとん相撲を楽しんでいた。二人だけで。
なんなら、中学生になってもやっていた。
部活が休みの試験休み中だったり、練習が平日よりは早い時刻に終わる土曜日だったりにも。もう中学生なのに。
いや、もっと「なんなら」を重ねるなら、我々は大人になってもそれをやった。怪獣消しゴムとんとん相撲を。
大の大人が、よ?
怪獣消しゴムはほぼ全てが相棒の所有物だった。
私が所有&持参するのは2匹だけ。
我々は「団体・勝ち抜き戦」をしていた。
私が2匹持参しているので、相棒が優先ドラフトで2匹を確保する。
相棒が確保するものは決まっていた。
アーストロン兄弟。アーストロンの大サイズ2匹。
(ちなみに、お借りした見出し画像は「サドラー」。アーストロンじゃないよ。)
アーストロン(大)は基本的に皆とんとん相撲が強かったのだが、そのうちの一匹は別格の強さだった。
相棒が冬に石油ストーブの上にその一匹を立たせていたら足の裏と尻尾がちょっとだけ溶けたらしく、ほんの少しではあるのだが土俵との接地面がならされ広がったことでその強さが上積みされていた。
そんなアーストロン兄。
そして、兄よりは少し弱いにしても、とんとん相撲界のトップに君臨していることに違いはないアーストロン弟。それが相棒の鉄板ツートップ。
対して、私の2匹はレッドキング(小サイズ)。
一匹はマグネットタイプだった。
マグネットタイプと簡単に書いたが、私はそいつ以外のマグネットタイプをほとんど見かけたことがなかった気がする。(思い違いだろうか。)
で、マグネットタイプということもあって、ずっしり感があった。重かった。
それでこのマグネットレッドはアーストロン兄と唯一比肩しうる強豪だった。
もう一匹は普通の黒レッドキング(小サイズ)
ただ、相棒のアーストロンはストーブで生まれ変わったんだから俺にもちょっと改造を認めろよということで、私はこの黒レッドに改造を加えていた。
基本、レッドキング(小)も元々強豪ではあったが、弱点として土俵との接地面が丸みを帯びていることが挙げられた。
だからとんとんの振動に対しての揺れが大きい。
私はその一匹だけについては土俵との接地面を完全に平らにした。カッターで切り落としたのだ。
横向きにした黒レッドの股下 / 尻尾下 部分にカッターの刃を立て、ラーメン屋店主さんがチャーシューと向き合う時のように「すーぅ しゅとんっ!」と斬り落とした。改造成功。(廃獣とはならず、私は賭けに勝った。)
この改造の効果はかなりあった。
この黒レッドからは完全に「揺らぎ」が消え、彼はアーストロン兄に比肩する実力を持つに至った。
私はこの黒レッドに強さとは関係ない加工も施した。
私は、闘犬漫画「白い戦士ヤマト」に出てくるブルドッグが好きだった。名はジャンボ。(今検索して調べた。なつかしい。)
その時の私はジャンボへのオマージュで黒レッドの片腕を義手にした。
海賊ものによく出てくるような感じに。
赤く塗った爪楊枝を刺し、細く切った黄色いビニールテープで根元を補強して。
そして、過去の激闘による名誉の負傷ということで、隻眼にした。
これはブルドック・ジャンボだけではなく、ガンバの冒険の『ヨイショ』へのオマージュも込めていたように思う。
最強アーストロン兄弟(大サイズ)に対抗する我が二枚看板はレッドキング兄弟(小サイズ)
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「大人になっても続けていた」ということで、ひょっとしたらこんな疑惑をお持ちになった方がおられるのではないだろうか?
「金銭を賭けていたのでは?」と。
断じて、ない。
金銭を賭けての勝負ではなかった。
ただただ、とんとん相撲が面白かったのだ。
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ここで我々のローカルルールをお伝えしておきたい。
大相撲のようにビデオ判定ができない我々は、片方が倒れた時に残る一方が完全に立っていない場合は「勝ち」としなかった。取り直しとした。
(これは剣道の「残心」という考えにも通じるものがあるように思う。参考にしたのは剣道漫画「六三四の剣」。というのは今になってのこじつけで、そうでないと勝負の判定が難しかったからだ。ビデオ判定がないからね。どちらが一瞬先に倒れたかなんて決められないよ。)
我々はお互いに気のいい奴だったから、完全に「残心」が成立していたのに余計な一叩きをしたことで勝者を倒してしまった時は相手の勝ちを認めていた。
そして、この「残心」ルールが新たなルールを生み出す。
一方が倒れた時に、残る一方も「残心」できずに倒れたとする。でも流れの中での最後の一叩きの振動・反発によって、先に倒れていたはずの負け力士が「すたっ」と立ち直すことがあったのだ。
我々はこの立ち上がりを認めた。「ウルトラC」と名付けて。
敗北からの生還、そして大逆転。
(このウルトラCの名手はベムラー(小サイズ)だった。
基本、ベムラー(小)は弱いのだが、このウルトラC能力によって我々としてもベムラーのことは無視できない存在として認識していた。
他にもウルトラCの名手はいたような気がするが、思い出せない。)
このウルトラCが起こった時の面白さが格別だった。
我々はこの「ウルトラC」に遭遇したくて「ウルトラC」が起こる瞬間を共有したくて見たくて見たくて、それで大人になってもこのとんとん相撲をしていた気がする。うん、そう言って過言ではない。
ウルトラCが起こった瞬間。
我々は腹から声を出して笑った。
心から笑った。
もう大人なのにアホのように笑い転げた。
そういう笑いの瞬間を我々は「心の弁が開いた」と表していた。
笑い、心の弁が開き、心の中にあった焦げ茶色の糸くずがごちゃごちゃと絡み合ったような得体の知れない何かしらが体外に放出され、日頃のもやもやを完全に一瞬忘れる。
最高のひとときだった。
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我々がやっていたのは団体勝ち抜き戦だった。
ドラフト制度でお互いが獲得した30匹くらいをずらっと並べての団体勝ち抜き戦。
大抵は、私の場合は大将にマグネットレッド( or 隻眼黒レッド)を配し。
相棒はアーストロン兄を配する。
最後、アーストロン兄と隻眼黒レッドによる改造力士同士の大将決着というような、そんなドラマチックな展開も一度ではなく何度もあった気がする。
ただ、何回もやっているとさすがに飽きてくる。
そんな時は「並び順」に趣向を凝らす。
マグネットレッドを先鋒に配して、何人抜きできるかを楽しむのだ。相棒も時々それを楽しんでいた。
どちらが「それ」をした時だったのかは憶えていない。
強い順に並べたチームの強い者たちがアクシデント的に敗れ続けた結果、大将に配した弱小怪獣が最後の砦になったことがあった。
普段ならドラフトにもかからないような弱小力士。
ふざけて、受け狙いで指名したような力士。
チャーチャン。
チャーチャンが特撮実写の中でどんな怪獣だったのかは知らない。
でも、怪獣消しゴムとしての、とんとん力士としての適性がないその姿だけはなんとなく憶えている。
チャーチャン一匹を残すだけとなった私(or相棒。いずれか。)
監督としての勝利への渇望か、彼を場違いなこんな場所に立たせてしまった申し訳なさか、その力士に向けてかけられた弱々しいささやきを我々二人はその後数年に渡ってずっと憶えていた。
「チャーチャン…
チャーチャンがんばれ…」
この後にチャーチャンが奇跡のような勝利を収めた、とかはない。
「あの日のあのチャーチャンの姿に、後年の私は勇気をもらうことになる」なんてこともない。
でも、
「チャーチャン…
チャーチャンがんばれ…」
という弱々しいあの声が、思い出させてくれるのだ。
我々の間には間違いなく、楽しい時間が流れていたことを。
チャーチャン。
俺は君の名を忘れない。なぜかバンザイしていたあの変な姿も。
相棒は、子どもなのにクラスメイトから「記憶じじい」と呼ばれていたこともあるほどの男だ。
私だけでなくきっと相棒もチャーチャンを憶えているに違いない。
…いや。
「そうであってほしい」と願っている。


















