こうきちの小屋 はるのこうきち雑記ノート

抱きまくら抱きしめて眠るおじさんの日々

竹内春

 

「その本は」又吉直樹 ヨシタケシンスケ 共著

 

その本は

この8月に初めて読んだ。
ネタバレあります。

私はピースの又吉氏が苦手だ。
文学の賞を取るほどの才能に嫉妬する面もあったかもしれないが、テレビでお見掛けする又吉氏のあの雰囲気が、私の職場の私の苦手な同僚に似ている気がして、苦手に思っていた。
だから、又吉氏の著作は一冊も読んだことがない。

ヨシタケシンスケさんの著作が好きな私がこれまで「その本は」を読む気にならなかったのは、そういう理由が大きかった。
今回、この「その本は」を図書館で借りるに当たっても、迷いがあった。本当に借りるのか俺?と。
「又吉のパートは読まなければいいんだ」
自分をそう納得させて借りた。

結局、又吉氏のパートも全部読んだ。
元々の又吉氏への(というよりは、その向こうに透けて見える私の同僚への)苦手意識が強すぎて、又吉氏の他の著作も読んでみようとまでは思わなかったが、この「その本は」で私の心に一番残ったのは、又吉氏の「第7夜」だった。
以下、ネタバレあります。


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この「第7夜」は
「その本は、誰も死なない。」
から始まる。
小学5年生の少年「岬真一」と、彼のクラスに転入してきた少女「竹内春」の物語。
「その本は」というフレーズは、各パート共通の書き出し。

交換日記で二人が心を通わせていく過程がとても好きだ。甘酸っぱい気持ちにもなる。
(私は邦画「(ハル)」が好きだったので、そんな私がこのへんの展開を嫌うわけがないのだった。)

でも、途中から少し悲しい予感が漂い始め。

結末。かなしかった。嘘であってほしいと思った。創作物にそう思っても仕方ないのだが、そう思った。

私は自分の読解力に自信など持ってなく、小説や映画でわからないことや解釈に自信がないことがあると、ついネットで調べてしまう。
今回もそうだった。

竹内春は、結局どうなったんだ?と。
自分では「竹内春は、鬼とのもみあいの中で、逆上した鬼に殺されたんだな。死んでしまったんだな」と思った。
でも、そういう解釈をはっきり書いてくれている人は少なかった。
「どこかで生きている」「二人がまた巡り会えることを祈る」というようなコメントも多かった。
作者又吉氏の「その本は、誰も死なない。」の冒頭の1フレーズを尊重して、竹内春の結末について敢えて触れなかった人も多いのかもしれない。

春という名を付けてくれた、竹内春の父は亡くなっている。「お父さんが生きてたらと思うと涙が止まらなくなる。」とあったから。
好きだったお父さんが付けてくれた名前だから「秋生まれなのに『春』」という名前も気に入っているのだ。
お父さんが人が変わってしまったのではなく、お父さんは亡くなり、今家にいる酒乱の鬼は、お母さんの新しい彼氏か新しい夫ということだと思う。

竹内春は亡くなった。でも、「岬真一の『心の中で』生き続ける」
とても残念だったけど、私はそういう結論を出した。

そうでなければ、9月の上旬に全校生徒が学校指定の黒いVネックセーターで全校集会に臨まないだろう。
「お母さんが誤って鬼を殺してしまい、罪を償わなければならなくなりました。竹内春さんは別の町で生きていくことになりました」だとしたら、
あるいは、
「お母さんを守るためのもみあいで、竹内春さんが誤って鬼を殺してしまいました」であっても、
全校生徒が黒いVネックセーターで全校集会に臨むことはないだろうと私は思う。
クラスの女子が泣いた。担任の先生も泣いた。
竹内春は亡くなったのだと思う。

だから30年後の岬真一の言葉も「世界の書店のどこかに、どこかの棚に、彼女が描いた、描くはずだった絵本があるはずなのだ。」と、「描くはずだった」という表現になってしまっているのだと思う。

岬真一のペンネームに思いの深さが表れていて、切ない。

私には小学5年生の時にこれほどの濃さで感情の交流をするクラスメイトはいなかったが、小学5年生であっても、こういう交流の後のこういう別れであれば、一生引きずることになると思う。この「第7夜」のように。
子どもだから簡単に忘れるという話ではない。

岬真一のその日からのその後の人生を思うと、切ない。
閉ざされてしまった竹内春の未来、あるかもしれなかった、あるはずだった未来。そのことを思うと、切ない。

私にはそういう読後感が残った。

切ない話だった。
「竹内春は岬真一の『心の中で』生き続ける」
そうは言っても、私は切なかった。

 

(後日の追加:2024年8月15日
読者を迷わせる紛らわしい文章やちょっとした暗号が散りばめられていて(私は自分ではその暗号には気づけなかったが)、物語自体はとても好きだっただけに、そんなもやもやを読者にもたらす又吉氏を多少恨めしく思った。ここの後日追加、おしまい。)

(後日の追加:2024年8月16日
岬真一自身が竹内春のことを忘れないのは当然として、「みんなにも」竹内春のことを忘れないでほしい・・・という希望のもとに敢えてこういうもやっとした表現を散りばめたのだとしたら。「その本」の著者としての岬真一(=みさきはるうみ)が願った通りになっていると思う。このもやもやもあって、私は竹内春をなかなか忘れられないと思う。

二人の交流が始まった直後のやりとり。意外さもあってブランコの立ちこぎについて聞かれた竹内春。その返答「うん。すっごいこぐよ」がチャーミングで忘れられない。家での鬼との時間がつらかった竹内春は、どんな気持ちで立ちこぎしていたのだろう。
「うん。すっごいこぐよ」

ここの後日追加、おしまい。)

 

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最後に。
ヨシタケシンスケさん担当の「第12夜」、心に沁みた。
私は、自費出版という形ではあるが、絵本を世に一冊出したことがある。
(もし叶うのであれば、今後私が関わった別の作品が絵本として世に出ないかな・・・という希望もある。)
そんな私には、この「第12夜」は沁みた。

 

 

 

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